江戸彫金 職人の世界に触れる
「神楽坂 暮らす。」で取り扱うジュエリーを作ってくれている坂有利子さんは、
谷中彫金工房で、江戸彫金(東京彫金)の勉強をした方。
坂さんの作品の繊細で柔和な彫りの技術には、目を見張るものがあり、
店主は、そのベースになっている江戸彫金の世界に、かねてから興味がありました。
そんな経緯もあって、
先月、坂さんの師匠である斎藤照英先生の工房を訪ねることに。
ここ最近、香炉や花器など、明治時代の超絶技巧による彫金作品が、
いろいろなメディアに取り上げられて、再評価されていますが。
店主がとても興味があったのは、
技巧のプロセスもさることながら、一流の職人のスピリットとでも言うべきもの。
現在、「作家(アーティスト)」を名乗る人は増えているけれど、
「職人(マイスター)」と呼ばれる方々に出会える機会など、稀なこと。
先生にはお忙しい中、時間を割いていただいて大変申し訳なかったのですが、
雑談をさせていただくことで、「職人の想い」の一端に触れることができました。
お話の中をうかがっていて、
一流の職人になるためには、以下の三つの条件が必要なのだということを再確認。
1、才能=手先の器用さ 2、忍耐力=継続する意志 3、感性=粋を感じる心。
才能と忍耐力は、どの世界で大成するにも必要なことですが、
彫金という工芸にとっては、感性も絶対に欠かせないことなのですよね。
それをもっと具体的に言うならば、
「書画文芸に通じることで、『粋』を表現できる力を養う」ということ。
工房には、先生が書いた草書の美しい掛け軸が飾ってあったけれど、
斎藤先生、書の分野でも一流なのです。
たぶん、そういった素養がないと、
作り出すものが、 「作品」ではなく、「製品」になってしまうのでしょうね。
「粋」が吹き込まれてはじめて、心ゆさぶる彫金作品が生まれるのだいうことを、
先生とのお話の中でしっかりと実感しました。
現在、斎藤先生は作品制作だけではなく、
明治大正の一流の先人たちが作った作品の修復・修繕も手掛けています。
一流の作品の修復には、一流の職人の力が必要なのですが、
後継者不足が続けば、それも困難になってくるわけで。
時代とは言え、お話を聞いていて、なんだか寂しい気分になりました。
ちなみに斎藤先生の工房は、
幕末明治期に活躍した名工、加納夏雄さんが眠る谷中墓地のすぐそば。
坂さんとともに、店主もしっかりとお参りをしてきました。
先生曰く、「加納先生のお墓参りすると御利益があるよー」とのことでしたよ。
[追記]
実は、先生が修復を終えた素晴らしい作品の数々を拝見したのですが、
諸々の事情からお見せできないのが、とても残念。
仕事場や道具の画像から彫金の世界を想像していただけたら、と思います。
(2013年2月2日)
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